税務ブログ

本当に減税は可能なのだろうか?~政治家がミスリードし続けた先に待つ未來は~

独立開業後、有難いことに仕事が思ったより獲得できたこともありそれなりに忙しい日々を過ごせている。ブログの更新が最近は途絶えがちですが、最近、減税について税理士目線(というより一般的な感覚から)から自分の考えをまとめてみたい衝動に駆られてしまいましたので、メモ書き程度にまとめたいと思います。

まず、先月行われた参院選では与党が大惨敗を喫し、国民民主党や参政党が躍進したのは記憶に新しいかと思います。各野党の個別の政策については詳細はわかりませんが、消費税の減税など、基本的には減税や積極財政を主張しているように思います。

私自身としては、国民民主党や参政党が嫌いというのではなく、自民党や公明党の支持者でもありません(選挙権を得て一度も自民党や公明党に投票したことはありません)。どちらかというと完全な無党派層で、先の参院選では主要政党に投票はしていません。

ただ、あまりにも減税を前面に出している政党が多く、またそれを支持する国民も多いと思いますので、税理士目線、一般的な感覚から本当に減税は可能なのか自分なりにまとめてみます。

目次

減税は可能なのか?まずは現在時点の状況の把握。

結論として、減税自体は一時的にできることもあると思いますが、長期的には増税路線にならざるを得ないと思います。

まず現在時点(2025年)の国民負担率は46.2%となっております。55年前の1970年の国民負担率は24.3%でしたので、約2倍に増えております。衝撃的ですね。

(国民負担率の推移:出典 財務省)

令和7年度の国民負担率を公表します : 財務省

55年前から国民負担率が約2倍に増えたわけですが、その原因は何かというと、間違いなく”少子高齢化”と言えるかと思います。先の国民負担率の推移を項目別に確認すると以下の状況であると把握することができます。

<1970年の国民負担率>

①租税負担:18.9%

②社会保障負担:5.4%

③合計:24.3%

<2025年の国民負担率>

①租税負担:28.2%

②社会保障負担:18%

③合計:46.2%

<増加率>

①租税負担:149%(28.2%÷18.9%)

②社会保障負担:333%(18%÷5.4%)

上記より、租税負担率は約1.5倍の増加に対して、社会保障負担率は3.3倍の増加となっています。下記は厚生労働省のサイトから引用したグラフですが、社会保障負担率の増加と少子高齢化の進行については相関関係があることが分かると思います。税金等を負担する人がどんどん減っていく一方で、税金等で支えられる人がどんどん増えていくわけですから、国民一人一人の税金負担率が上がるのは当然ですよね??

国民は理解していないのか、あるいは理解をしているが知らないふりをしてきたのか?

下記のような図(似たような図)を見たことある人も多いと思います。「現役世代が支える高齢者の人数」と検索すると、下記のような図が出てくると思いますが、このような図は最近出てきたというわけではなく、20年以上前からこのような図はテレビ又は学校の教材でたびたび登場していたと思います。少なくとも、私が高校生であった20年以上前にこのような図を見た記憶があります。

少なくとも20年以上前から、少子高齢化が進行すると国民負担率が増加(=増税)することはテレビなどで報じられていた(国民に周知されていた)わけで、少子高齢化が進んだ結果、当初想定されていた通りの国民負担率になったというわけなのです。現在時点の税負担が重いというのは私も実感としてはありますが、増税が続いたというのはある意味当然だと整理しております。お医者さんから、「お酒を飲み続けたら病気なるので止めなさい」と忠告されていたにもかかわらず、「大丈夫、大丈夫、私は今を楽しんで生きている」と酒を飲み続けて実際に病気になってから騒いでは遅いですよね??

さて、上述したように、少子高齢化が続く限り、増税トレンドを変えることは難しいと考えておりますが、国民はそのことをそもそも理解していないのか、あるいは理解をしているが知らないふりをしているのかどっちなのだろうか??このことを妻に聞いてみたところ、「理解していないと思う。政治家がちゃんと説明しないから。」なるほど、言い得て妙だなと思いました。

個人単位では身の丈にあった生活を意識できるのに、国という大きな枠組みでそれが意識できないのは何故なのか?

下記にある家族の収支の内訳を示してみましたが、この収支内訳をみてどのような感想を持つのか気になるところです。家族構成は、本人、妻、両親、子の5人家族となります。

普通に考えてやばいなと思いますよね??収入の欄を見ていただきたいのですが、新規でローンを組まないと家計が回らなくなっています。自転車操業とはまさにこのことを言います。支出の部を見ると、両親の介護費、クレジットカードの返済、食費の負担が大きいことがわかりますね。また、クレジットカードのローンの残債も増えているのも注目です。絶望的な気持ちになりますね。。

ちなみに上記の収支の例は、令和6年度の日本の予算における収支をざっくりとした割合でまとめたものとなります。日本の財政がいかに悪い状況かわかると思います。

(令和6年度予算:出典 NHKのサイト)

予算の全体像は(歳入と歳出) 令和6年度(2024年度)予算|NHK

家計の話に戻しまして、このような状況下で子供が最新のiphoneが欲しいと言い出しました。本体の月々の返済額と通信費の増加で月2万円の出費が増えます。子供が言うには友達がみんな持っているから自分も欲しいのだと、最新のiphoneは必ずしも必要な物とは思えないですが、あなたなら子供に最新のiphoneを買ってあげますか?上記の通り、家計はカツカツで余裕はないです。この場合の対応策としては主に以下の4つに分けられると思います。

①お父さんの残業を増やす(いわゆる増税)

お父さんに残業をして貰い毎月の収入を増やす策。言うまでもなく、お父さんはいままでより多く働く必要がありますので、お父さんの負担は重くなります。いわゆる増税に相当します。

②追加でクレジットカードローンを組む(いわゆる国債の発行)

これ以上働くのがしんどい場合に取る策。ローンの残債が増え続けます。将来の子供の負担が多くなります。最悪デフォルトし、自己破産になる可能性もあります。

③ほかの費用を削る(財政の見直し)

これ以上借金をするのがマズイと思い、支出を見直しする策。例えば、1日3食から2食に減らしたり、家族で病院に通う回数を減らすことが考えられます。言うまでもなく、生活の質が下がることになります。

④iphoneの購入をあきらめる(支出抑制)

そもそも最新のiphoneが必ずしも必要ではないと考え、子供にあきらめてもらう策。子供の不満はたまるかと思いますが、現状の家計を子供にしっかり説明し、子供に我慢することの大切さを教える。

いかがでしょうか?皆さんは上記のうちどのような選択をされるでしょうか。ほとんどの人は④を選択するのではないでしょうか。私自身もそうですが、私の両親、友人など、多くの人は身の丈に合った生活を営んでいます。私見とはなりますが、身の丈に合った生活をするというのは日本人の美学としてあるような気がします(そう信じたい)。収入がないのに、身の丈に合わない豪華な生活をしている家庭があったら、後ろ指を指して陰口を言いますよね??

多くの国民の価値観として、個人単位では④を選択される方が多いと思いますが(そう信じたい)、国単位では何故が②を選択する人(したい人)が多いように思います(減税については①~④の選択肢には含まれていませんが、減税は収入が減り、その代わりに国債発行が増える方向になりますので、減税は実質的には②となります)。事実として、国民民主党や参政党のように減税や国債の新規発行を公約として掲げている政党が今回の参院選では大躍進をしているわけです。何故なのでしょうか?

(参政党)

公約 | 第50回衆議院選挙-50th House of Representatives Election- 日本をなめるな!

(国民民主党)

【政策】国民民主党2024年重点政策を発表 | 新・国民民主党 – つくろう、新しい答え。

財源を示さない(明確にしない)減税アピールで国民を混乱させている可能性

国民一人一人の感覚としては身の丈に合った生活をしたいと考えている人が多いと信じていますが、選挙が行われる度に、国民受けを狙い、減税アピールをする政治家が多いような気がします。その結果として、国レベルでは身の丈に合わない生活になっていても、それに気づかない、又は問題ないと錯覚してしまっている可能性があるように思います。

前述のNHKがまとめた資料によると、収入に占める消費税収は21.3%を占めます。消費税廃止を主張する政党もありますが、消費税廃止に伴う財源不足はどのように手当てするつもりなのでしょうか。前述の5人家族の例によると、給料が20%減りますので、毎月70,000円の収支が悪化します。クレジットカードローンの借り入れを増やして、子供に負担のつけを回すのでしょうか?あるいは両親のうち一人を姥捨て山に連れて行くのでしょうか?

私は各政党の細かい主張を確認しているわけではありません。私自身の仕事もありますので、細かく見ることはできません(大抵の国民も同じだと思います)。減税を主張している政党も実際は財源を示しているかもしれませんし、示していないかもしれません。仮に示していたとしても、非常にわかりづらく国民に伝わっていないのではないかと思います。テレビやインターネットでは減税ばかりがクローズアップされていて、財源自体の取扱いが不十分のような気がします。その結果として、国レベルでは身の丈に合わない生活になっていても、多くの国民は、それに気づかない、又は問題ないと錯覚させてしまっているのではないでしょうか。つまり、政治家が国民をミスリードしてしまっているのではないかと思うわけです。

政治家は国民に対して真摯に現状を伝えて欲しい

これまで述べてきたように、私個人としては減税に対しては懐疑的な目で見ております。政権与党、財務省を支持するわけではないのですが、税理士として一般的な簿記・会計の知識があり、会社の税務及び財務を長年見てきた経験から言うと、日本の財政状態はとてもサステナビリティ(持続可能性)ではないと思います。自転車操業の会社があると、「あの会社はやばいよね。銀行はまだお金を貸してくれるのかな」と会計事務所の職員同士で雑談のネタにしたりします。

一方で、「国債のほとんどは日本国内で消化されているから、国債を発行し続けても問題はない」というような主張はインターネット内ではみられるところです。その主張が正しいかどうかについては、私は金融・財政の専門家ではありませんので正直わからないです。本当にわからないのです。

現状の財政状況の中で、減税が可能なのか、減税していくことが国民全体(年金世代、現役世代、将来世代)のためになるのかどうか、しっかり伝わるような形(例えばテレビ討論会)で政治家は国民に現状を伝えて欲しいと願っております。減税を実行するということは、その代わりに失うものもあるはずです。そのようなことも真摯に国民に伝える義務が政治家にはあるはずです。