A. 相続人等に対する売渡請求は、相続等により会社にとって望ましくない者が株式を取得した者に対して、その株式を会社に売り渡すように請求することができる制度となります。この制度を利用するには、下記に示すような留意点があります。
1. 対象となる株式
- 譲渡制限株式: 売渡請求の対象となるのは、譲渡制限株式のみです。
- 定款の規定: 定款に「相続人等に対する売渡請求」に関する規定が必要です。
2. 売渡請求の手続き
- 株主総会の決議: 売渡請求を行うには、株主総会の特別決議が必要です。
- 請求期限: 会社が相続の発生を知ってから1年以内に行う必要があります。
- 価格決定: 売渡価格は、会社と相続人との協議で決定します。
- 裁判所への申立て: 協議が不調の場合は、裁判所に価格決定の申立てができます。
3. その他
- 財源規制: 会社法上の財源規制に違反しない範囲で、自己株式を取得する必要があります。
4. 事業承継における注意点
この制度については、事業承継においては危険なリスクがある点を認識しておく必要があります。というのも、この売渡請求は、後継者以外の株主が後継者に対して行うことができ、売渡請求をうけた株主(後継者)は利害関係者として、売渡請求にかかる事項については株主総会で議決権を行使することができないとされています。したがって、後継者が自社株式を相続するときに、会社の経営権の獲得を狙って売渡請求を行う少数株主が現れる危険性があります。
①経営者(株式保有数100%)、後継者(相続人)の場合
この場合には特に問題にはなりません。
②経営者(株式保有数80%)、少数株主(株式保有数20%)、後継者(相続人)の場合
この場合には、少数株主が経営権の獲得を狙って結託し、株主総会を開催の上で、後継者である相続人に対して株式の売渡請求を決議することが可能となります(相続人である後継者は売渡請求にかかる事項については議決権を行使することができない)。
このリスクに対する対応策としては、相続前に事前に株式を後継者に移転することも考えられます。事前に後継者に移転するのに資金面でハードルが高いような場合には、相続人等に対する売渡請求を定款から削除するのが良いでしょう。いずれにせよ、事業承継対策については早めに対策をすることが望まれます。