A. 事業承継において、後継者が安定的に経営権を握るためには、安定多数の株式を保有することが重要となります。
安定多数とは、株主総会において、通常の決議に必要な過半数を超える議決権を確保できるだけの株式保有数を指します。
事業承継においては一般的に、発行済み株式総数の3分の2以上を保有することが安定多数と考えられています。これは、会社法で定められている特別決議に必要な議決権の割合だからです。
特別決議が必要な事項には、代表的なものとして例えば以下のようなものがあります。
①定款の変更
②重要な事業譲渡、合併、会社分割等
③減資、会社の解散
④特定の株主からの自己株式の買受け
後継者がこれらの事項を自身の意思で決定できるようにするためには、安定多数の株式(すわなち、発行済み株式総数の3分の2以上)を保有しておくことが重要となります。
言い換えれば、3分の1超の議決権を保有していれば、重要な事業譲渡や合併等を阻止することができますので、3分の1超の議決権が後継者と対立している人に所有されている場合には、後継者への安定的な事業承継の妨げになると考えられます。
なお、同族会社が多数を占める中小企業においては、株式が特定の株主に集中していることが多いため、3分の2以上の株式を保有することがまずは1つの目標となります。一般的には親族が多くの株式を保有しているため、後継者が親族から株式を承継することで、安定多数を確保できる可能性は高いと考えられますが、平成2年改正前の旧商法時代に設立された会社については、会社設立にあたり7名以上の発起人が必要であった関係上、親族と言っても遠い親戚に会社の株式(いわゆる名義株式)が所有されている可能性もあるので留意が必要です。
まずは株主名簿や法人税別表2でどのような株主がいるのか正しく把握してみましょう。もし名義株主が存在するような場合には、解消法について専門家(弁護士や司法書士)に相談することをお勧めします。