法人税

Q. 外資系企業の親会社が変更となった場合の注意点とは?

A. 事業譲渡類似株式の譲渡の論点を検討する必要があります。外資系企業においては、親会社が変更となることはよくあります。申告業務の際には必ず資本関係図をクライアントより入手し、親会社に変更がないかどうかを確認するように心がける必要があります。

事業譲渡類似株式の譲渡に該当する場合にはどうなるのか?

事業譲渡類似株式の譲渡に該当する場合には、各国と締結されている租税条約の内容にもよりますが、親会社が日本で法人税の申告義務が生じる可能性がある点に留意が必要です。

親会社がシンガポール法人である場合には?

親会社がシンガポール法人であるものとして検討してみましょう。まずは大原則の国内法の検討です。

<前提>

・親法人(シンガポール法人:日本にPEなし)

・親法人による日本法人の持株割合:100%

・親法人による日本法人株式の所有期間:5年

・すべての株式を譲渡する

<国内法の検討>

日本にPEを有しない外国法人については、国内源泉所得に対して課税が行われることとなります。法人税法138条1項3号において、国内にある資産の譲渡により生ずる所得として政令で定めるものについては、「国内源泉所得」とされておます。その委任を受けた政令178条1項4号ロにいては、内国法人の特殊関係株主等である外国法人が行うその内国法人の株式等の譲渡による所得とされております。なお、同法に規定する株式の譲渡については、同法第6項において、以下に掲げる要件に係るものとされております。

一 譲渡事業年度終了の日以前三年内のいずれかの時において、内国法人の特殊関係株主等がその内国法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の25以上に相当する数又は金額の株式又は出資を所有していたこと

二 譲渡事業年度において、内国法人の特殊関係株主等が最初にその内国法人の株式又は出資の譲渡をする直前のその内国法人の発行済株式等の総数又は総額の100分の5以上に相当する数又は金額の株式又は出資の譲渡をしたこと

シンガポール親法人は、日本子法人株式の25%以上を5年以上所有しており、かつ、すべての株式を譲渡しているため、上記の要件を充足することになりますので、その譲渡に係る所得は「国内源泉所得」ということとなります。

<租税条約の検討>

続いて租税条約を検討します。なぜ租税条約を検討する必要があるかと言うと、日本国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約において国内源泉所得について異なる定めがある場合には、その条約の適用を受ける外国法人については、国内源泉所得は、その異なる定めがある限りにおいて、その条約に定めるところによるとされているためです(法人税法139条1項)。それでは日本シンガポール租税条約を確認しましょう。日本シンガポール租税条約13条4項(b)には以下のように規定されております。

一方の締約国の居住者(シンガポール法人)が他方の締約国の居住者である法人(日本子法人)の株式の譲渡によって取得する収益に対しては、次のことを条件として、当該他方の締約国(日本)において租税を課することができる。

(ⅰ)当該譲渡者が保有し又は所有する株式の数が、当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中のいかなる時点においても当該法人の株式の総数の少なくとも25%であること。

(ⅱ)当該譲渡者及びその特殊関係者が当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中に譲渡した株式の総数が、当該法人の株式の総数の少なくとも5%であること。

日本シンガポール租税条約13条4項(b)においては、上記の要件を充足する場合には日本においても課税をすることができるとされておりますので、結論としてはシンガポール親法人は日本において申告をする義務が生じることとなります(法人税法144条の6 2項)。

※日本側の税務上の取り扱いを検討しておりますが、シンガポール側の税務の検討も実際には必要になる点に留意が必要です(現地の専門家に確認したほうがよいでしょう)。

仮に親会社がアメリカ法人である場合には?

仮に親会社がアメリカ法人である場合にはどうなるのか検討してみましょう。国内法の取り扱いは上述した通りとなりますので、今度は日米租税条約を確認してみましょう。

譲渡に関しては、日米租税条約の13条に規定があります。1項から6項までの規定には、国内法のような規定(25%以上~、5%以上~)はなく、1項から6項の規定に該当しない場合には7項の規定が適用されることとされています。同条7項では、1から6までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者とされる締約国(アメリカ)においてのみ課することができるとされております。アメリカにおいて「のみ」課することとなりますので、日本においては課税されないこととなります(つまり、申告義務はない)。なお、この場合には租税条約に関する届出書の提出が必要になる点に留意が必要となります(実施特例法省令9の2 9項)。