所得税

Q. 無償で資産を譲渡した場合の基本的な課税関係の取り扱いは?

A. 資産を無償で譲渡をする者が個人なのか法人なのか、資産を無償で譲り受ける者が個人なのか法人なのかでそれぞれ課税関係が異なってきますので、それぞれのパターンについて整理してみましょう。なお、下記の課税関係についてはあくまで基本的な論点を整理するものとなりますので、その点ご了承ください(例えば、同族会社に財産を無償譲渡した場合にその同族会社の株主に贈与税が課税されるという論点もありますが(相基通9-2)、そういった論点には今回は立ち入らないこととしております)。

1.前提

時価5000万円(取得価額1000万円)の土地を贈与する場合

2.基本的な課税関係の整理

①個人Aが個人Bに贈与する場合

・個人A

課税関係なし

・個人B

贈与税が課税されます。

<補足>

日本の相続税法は遺産取得税方式を採用しており、遺産を取得した人に対して相続税が課税される仕組みとなっております。相続税のみですと、生前に財産を贈与することによる相続税の課税回避が意図的に可能となるため、相続税法では贈与税の項目を設けて、財産を贈与により取得した者について贈与税を課税する仕組みとなっております(なお、贈与税法という法律はありません)。贈与税が相続税の補完税であるといわれる所以となります。

贈与税という名称から、贈与した人が課税されるのかな?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、贈与により取得した資産が遺産の前渡的な性格であると捉えると、相続税と同様に資産を取得した者に課税するということになるかと思います。

②個人Aが法人Aに贈与する場合

・個人A

所得税課税(いわゆるみなし譲渡課税)

・法人A

法人税課税

<補足>

まず、個人A側の処理についてですが、無償で資産を譲渡した場合になぜ個人Aに課税されるかについては、納得いかない方も多いように思われます。個人Aに何ら金銭等の対価の収入がないことを考えるとそう思われるのも仕方がないように思います。しかし、譲渡所得課税については、清算課税説の下、有償無償かを問わず、個人Aの所有期間中に生じていた値上がり益(キャピタルゲイン)について課税する仕組みとなっております(難しい言葉がいろいろと出てきておりますが、大学や大学院で租税法を勉強されている方については馴染みの言葉かと思います)。仮にこの個人Aの所有期間中に生じていたキャピタルゲインについて課税しないとなると、その部分については永遠に課税機会を失うこととなります。その観点から考えると、法人に対する無償の資産の譲渡については、無償で資産を譲渡した側(今回のケースでは個人A)に課税する必要が生じます。

なお、上記①のケース(個人Aが個人Bに贈与するケース)について、個人Aに対してもみなし譲渡課税が行う必要があるのでは?と勘の鋭い方はお気づきになっている方もいらっしゃるかと思います。まさにその通りで個人間の贈与のケースについても、理論的には個人Aに所得税課税(キャピタルゲイン課税)を行うべきことになりますが、その場合には、個人Bに贈与税、個人Aに所得税課税(キャピタルゲイン)となり、納税者の理解を得ることは到底できないため、個人間の無償の資産の移転(相続や贈与)については、個人Aの保有期間中に生じていたキャピタルゲインの課税を繰り延べる措置がされております。具体的には、資産を無償で取得した個人Bが当該資産を将来手放す際に、個人Bの所得としてまとめて課税する仕組みとなっています。

次に法人Aについては、無償で資産を譲り受けたわけですから、その分課税所得が増えますので、法人税が課税されることについては特に違和感はないかと思います。

③法人Aが個人Aに贈与する場合

・個人A

所得税課税(一時所得(*))

(*)場合によっては給与所得なども考えられますが、基本的な論点の整理となりますので、ここでは給与所得該当性については考慮しないこととします。

・法人A

法人税課税(いわゆる寄付金課税)

<補足>

まず個人Aへの課税についてですが、所得税については、包括的所得概念(純資産増加説とも呼ばれます)の下、個人の担税力を増加させるあらゆる経済的利益を捉えて課税する仕組みとなっております。所得税法の条文に包括的所得概念を採用していると記述されているわけではないのですが、所得税法上は、利子所得から一時所得までをまず定義し、これらの所得に該当しないものについては雑所得に区分する仕組みとなっていることから、包括的に所得を捉えようとしていることがわかります。したがって、法人Aから贈与により資産を取得した個人Aについては所得税が課税されることとなります。

次に法人Aへの課税についてです。そもそもなぜ法人を作るかというお話になるかと思います。すべての法人に該当するわけではないですが、基本的には営利を目的として法人が設立されることになるかと思います。法人税では、営利を目的とする法人が自己の財産を無償で贈与するという非経済的なことを行わないと考えますので、無償の贈与であっても法人税法上は時価で譲渡したものとして考えます。仕訳で確認してみましょう。

(会計)

譲渡原価 1,000万円 土地 1,000万円

(法人税)

未収入金 5,000万円 譲渡収入 5,000万円

譲渡原価 1,000万円 土地 1,000万円

寄付金  5,000万円 未収入金 5,000万円

法人税では、基本的には寄付金は損金の額として認められませんので、法人税の計算では4,000万円が課税所得として法人税の課税対象となります。

④法人Aが法人Bに贈与する場合

・法人A

法人税課税(いわゆる寄付金課税)

・法人B

法人税課税

<補足>

法人Aの課税については、上記③の課税と同様の取扱いとなります。法人Bの課税については上記②の課税と同様に取り扱われます。

3.参考文献

三木義一先生の「よくわかる税法入門」にこのあたりの説明が詳しくあったかと思います。私が学生の頃購入したときは第4版だったのですが、今は第16版まできているようです(すごいですね)。私は三木先生のファンでしたので、三木先生の税金関係の本はよく購入していましたし、「よくわかる税法入門」は学生の頃から数えると10回以上は読み込んでいたと思います(個人的にはこの本は名作だと思います)。三木先生に一度だけお会いしたことがあったのですが、とても気さくな感じの素敵な先生でした。本にサインして頂けたのは学生時代の良い思い出です。

なお、包括的所得概念や清算課税説の話は、金子宏先生の「租税法」に詳しく記載があったかと思います。こちらの本は租税法を専攻する大学院生には必須のアイテムとなりますね。