法人税

Q. 短期前払費用の特例の適用を受ける際の留意点とは?

A. 短期前払費用の特例については、節税対策(どちらかというと課税の繰り延べ)に用いられることも多くあると思いますが、過度の同特例の適用については、税務調査で否認されるリスクがあると思われます。

そもそも前払費用とは?

前払費用とは、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいうとされております(企業会計原則注解)。身近なものとしては、賃貸マンション等を借りる際に賃料などと一緒に2年分の火災保険料を支払うケースがあると思いますが、その火災保険料が前払費用に該当します。前払費用は将来にわたって費用化されることになりますが、貸借対照表上は資産の部に計上されることになります。契約を途中で解約した場合には未経過期間の分については、お金が返ってきますので資産性があるということになります。

短期前払費用の特例とは?

短期前払費用の特例とは、法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、上記の「前払費用」にかかわらず、その支払い時点で損金の額に算入することが認められるとされています。

ただし、収益の計上と対応させる必要があるものについては、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点で損金の額に算入することは認められないとされております。例えば、収益の計上と対応させる必要がある売上原価についてはこの特例の対象外ということになります。

(国税庁ホームページ:短期前払費用として損金算入ができる場合)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5380.htm

短期前払費用の効果

短期前払費用が節税でよく用いられる理由としては、将来の費用を先取りできるメリットがあるからです。

例えば、1年契約の保険(保険料120円)について、5年間、同契約を繰り返し契約した場合で考えてみましょう。

(通常のケース)

(1年目)(2年目)(3年目)(4年目)(5年目)
120120120120120

(短期前払費用の特例を利用したケース)

(1年目)(2年目)(3年目)(4年目)(5年目)
2401201201200

契約した年に1年目の金額を費用として計上し、さらに期末に2年目の契約分についても費用計上することになりますので、最初に契約を始めた年に費用を多く計上することが可能となるわけです(つまり、所得を減らすことができ、税金を減らすことができる)。しかし、上記の表を見てわかる通り、短期前払費用の特例を使用したケースでは、あくまでも将来の費用の前取りしているのにすぎませんので、節税ではなく、課税の繰り延べと考えた方が良いでしょう。ただし、半永久的に契約を繰り返すこととなる場合には、法人が清算しない限り、課税を半永久的に繰延することが可能ではあります。

短期前払費用の特例は上記のようなメリットはありますが、1年分を毎年継続して前払いする必要がありますので、キャッシュフロー的には良いとは言えないかと思います。

短期前払費用が損金算入できる根拠は?~ここが重要~

短期前払費用通達(法基通2-2-14)の趣旨について、国税庁は以下のような見解を述べております。

「本通達は、1年以内の短期前払費用について、収益との厳密な期間対応による繰延経理をすることなく、その支払時点で損金算入を認めるというものであり、企業会計上の重要性の原則に基づく経理処理を税務上も認めるというものです。

上記ハイライトした箇所が重要なのですが、税務上の短期前払費用の特例の適用の可否については、あくまで企業会計上の重要性の原則に沿ったものであるかどうか検討する必要があると思います。

(国税庁ホームページ:短期前払費用の取扱いについて)

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/02/03.htm

具体的な事例の検討

短期前払費用の特例を受ける前の税引前利益が20,000,000円として、保険料年額120,000円を期末時に1年分前払いするケース<ケース①>と、地代家賃年額12,000,000円を期末時に1年分前払いするケース<ケース②>を想定します。

<ケース①>

このケースでは、税引前利益に対する保険料の割合はわずか0.6%しかありませんので(120,000÷20,000,000)、会計上は一時の費用として処理し、税務上も短期前払費用として全額損金に算入することが可能かと思います。

<ケース②>

一方、ケース②の場合には、税引前利益に対する地代家賃の割合は60%にも達します(12,000,000÷20,000,000)。この場合には、1年分の前払いの地代家賃は全額損金に算入することができるのでしょうか?答えはNoだと思います。

企業会計原則注解(注1)については、以下のように記載されております。

企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。

(2) 前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定科目として処理しないことができる。

税引前利益の60%を吹き飛ばす地代家賃の費用の先行計上については、企業会計上の重要性の原則の要請に適うとは言えないでしょう。つまり、この場合には、企業会計上の処理がそもそも誤りであり、税務上も当然に短期前払費用の特例の適用を受ける事はできないということになるかと思います。

さいごに

経営者の方(あるいは会計事務所職員の方)は、税金対策として短期前払費用の特例の適用をご検討される方も多いのではないかと思います。短期前払費用の特例については、使い方によっては確かに有効な方法にもなりえますが、そもそもの性質として、節税ではなく課税の繰り延べであること、また、同特例の過度の利用によっては、税務上否認されるリスクがある点に留意したほうが良いかと思います。